なぜ私は私を痛めつけ苦しめるものをこんなにも好きなんだろう。
どれだけ恐ろしいものかよく知っているのに、主がそれを取り出した瞬間は、いつもうっとりと見惚れてしまうんだ。
乾いているのに滑らかな、しっとりと鞣された丈夫な皮革。
ミンクオイルの香りを残して艶やかに光る、使い込まれた何条もの革。
美しいと素直に思う。
バラ鞭? 千条鞭? そんな名前さえ私は興味がない。
主が使いたいものを使うだけのこと。
私が何かを選ぶ余地はどこにもないのだから、名前など知っていても無駄なこと。
ひゅんひゅんと空気を切る音。
軽くそれを振りながら、「乗馬鞭や一本鞭は長く楽しめないからな」と主が言う。
ああ、今日の主は、女を酷く痛めつけて得る興奮よりも、じっくりと弄ぶ楽しみを選ぶのだなと私は理解する。
深呼吸する。
今日の主はきっといつまでも私をいたぶりながら喘がせて、自分が果てるまでたっぷりと翻弄しながら嘲笑うのだろう。
それに耐える覚悟を決めよう。
主を欲しくてどうしようもなくなっても、きっとすぐには与えられないから、それを堪える覚悟を。
お尻、太もも、背中、胸。
強弱をつけ時に体重を乗せて、私の苦痛の度合いを計るようにスナップをきかせながら鞭を降らせる主。
久しぶりの、けれど馴染んだ痛みに慣れ始め、熱くなった皮膚がむず痒くなってきた頃に。
「こうして鞭打っていると」
「段々勃起してくるんだよな」
主の楽しげな声。
無意識に避けようとのけぞってしまう私の体、衝撃を受け止めるためにくねらせる腰。
それがサディスティックな気持ちを昂らせると言う。
そう囁いてくれるそのわずかな時間が、私に与えられた休息。
呼吸を整えて目を閉じた頬に、何かが触れた。
温かくしなやかに、優しく。
何本もの革の帯が私の頬をはらりと撫でた。
さっきまで打ち据えていた私の体で温まったのか、オイルが甘く強く匂った。
・・・ああ
「ほら、嗅いでごらん」
「お前の体に絡み付いた革の匂い」
私は目を閉じたまま息をゆっくり吸い込む。
鼻腔に満ちるのは、どんな香水よりも私をうっとりと酔わせる革の香。
・・・ああすてきだ・・・
苦痛を訴えるために情けなく無様な形に開いてた口が、
唇を柔らかくして熱い息を吐き出す。
呼吸が吐息に変わる。
目を開き、頬ずりするようにして目の前に垂れ下がる革の感触を味わった。
私を痛めつけるもの。
苦痛の極で主と私を結びつけてくれるもの。
「お前は本当にこれが好きだな」
「痛いのが大好きな変態マゾ」
・・・・・
「ほら返事しろ」
・・・はい
そうです・・・