「しおりは燭台なんだよ」
主が噛んで含めるように私に言い聞かす。
「飾り」
「この城の飾りなんだよ」
私はうなずくことも首を振ることもできない。
太い蝋燭を咥えているせいで、口の中に唾液がたまって
呼吸が乱れる。
少しでも首を動かしたらぽたぽたとこぼしてしまいそうで
私はただ喉の奥でなんとか飲み込もうと虚しく舌を動かして
主に答えることもできない。
私がどれだけこれを嫌いでも
もうすぐこれに火を点けられることはわかる。
私が大嫌いなもの、大嫌いなこと。
だからこそ主が好きなもの、楽しいこと。
もう、本当の苦しみの時間は遠くない。
怖さはもう限界を通り越していて
こんな時はもう何でも受け入れられる。
あがけばあがく程痛みも苦しみもひどくなることを
私は知っている。
そう、だって
私は燭台で、私は飾りだ。
そう。
主の望む全てのものになりたいと願った強欲は私だ。
これは主の楽しみと同時に、私の強欲への罰。
・・・ただ、自分のために痛みが少しでも少ないようにと祈るだけ
「顔をあげて」
「点けるぞ」
・・・・・・・ああ
熱い
視界が熱と明るさでゆらめいて
もう目を開けてることもできない
けれど
この先端で
じりじりと燃えてとけていく蝋
いやだ落ちないで
お願い落ちないで
怖い
落ちた蝋が皮膚の上をこぼれるように流れる
火傷に似た痛みが一滴ごとに先へとのびていく
「滴がふくらみをなぞるようだよ」
見ようとすればさらにまた蝋が余計に落ちるだけ。
新しい場所に落ちてさらに痛みが広がるだけ。
だから私は主の言葉を自分の苦痛で確認する
「綺麗だよ」