狂気の時間へようこそ
「見えない所から打たれるのと、見えるように打たれるのは
どちらの方がいいんだろうな」
私は見えない方がいいと答える。
見えたら怖いから。
逃げられもしないのに、次々と襲ってくる苦痛を数え
皮膚の色がかわっていくのを見ているのは耐えられないから。
それなら目を閉じて歯を食いしばって耐えさせられる方がいい。
「いや、でもしおりには見せつけながらの方がいいかな」
どうして?
「痛いのが嫌なのと、痛くして欲しいのが混ざったしおりの表情が見られるだろ?」
主が笑う。
「しおりの目の前に鞭をさしだして」
「使い込んだ革の匂いをたっぷり嗅がせて、やさしく頬や首筋に滑らせてやって」
「しなやかさをしっかり確認させてから」
「体の色んな部分に打ち付けてやろうな」
・・・うう
「柔らかい革は当たった部分から回り込んで、先端で一番痛みを与えるから」
「しっかり体をなぞりながら計らないと」
「回り込む先端をどこに持っていくか」
「そのためにこうしていつも最初に体をなでるようにするだろ」
はい
「腿の辺りを叩いたようでも、回り込んで尻に痕をつけていく」
「背中側からだと柔らかい乳房が狙えるな」
・・・痛すぎて苦手です
「ふふ」
「だから楽しい」
「痛めつけると興奮するよ」
「背筋につんとした快感が走る」
さっき頬であじわった革は乾いて冷たく、けれどとても優しかった。
かつて生き物の皮膚であったもの。懐かしいような感触。
けれどそれがしなりながら体に飛んでくる時は、
別のもののように熱く、真っ白になるような痛みを弾けさせる。
主がそれを軽く振る。
ひゅんと空気が鳴った。
「ラテックスの上からだから、今日は手加減しないですむな」
楽しげな主の声。
数分後には私は自分を手放させられ、ただ叫ぶだけの人形になっているだろう。
苦痛に屈服させられ、無条件の服従のスイッチを入れられているだろう。
「いくぞ」
主が誘う目眩く狂気の時間の開幕。
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