2011年7月12日火曜日

倒錯・1

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主が私を跪かせ、いつものようにこの口を使う。


髪を掴まれ頭を動かされる。
喉の奥を突かれ、繰り返しこみ上げる吐き気。
その度に呻き声と共に口蓋を開き、嘔吐しないようにやり過ごす。
えずき苦しむ声を主が楽しんでいるのを感じられれば、それは同時に被虐の快楽になる。


口中で膨れ上がったそれが一際深く咽頭を突き立てるから、きっともうすぐに吐き出されるものを味わおうと、ぎゅっと目を閉じて身構えた。
だけど主はそれを勢い良く引き抜き、ぽかんと開いたままの私の口許や胸に撒き散らすように射精した。


私は深く息を吐く。
さっきまでの強烈な胸苦しさが消えていくのを待ち、呼吸を整えながら、目を閉じたままゆっくりと手を持ち上げる。
指先で頬や顎をなぞり、そこに振りかけられた熱いものを拭っては唇に運び、それを舌先で味わった。
まだ荒い呼吸の主が蔑むように私を見下ろしている。


「おいしいか?」


・・・はい、おいしいです、ありがとうございます


主が喉の奥で笑った。


「精液中毒だな」


私はゆっくりと目を開き、主を見上げてうっとりと笑い返した。
気持ちがいい・・・。





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唇を撫でていた指をきれいに舐めて手を床に下ろしたときに、それに気づいた。
一滴、こぼれたもの。
ちょうど両の手の間にぽつんと落ちているそれは、紛れもなく主のもの。
私は思わず小さく声をあげた。


「どうした?」


頭上から主の声。


なんでもないと言えばいい。
そうすれば主は気づかない。
だけど嘘をついてもいいの?


答えをためらったわずかな時間で、私が見ているものを察したのだろう。
主が発している空気がすうっと冷えた。
私はおそるおそる顔を上げる。主の表情を伺う。
そこにあったのは、さっきまでの快楽の放恣とした穏やかさが消えた、サディストの顔。


どうして見つけてしまったんだろう。
見つけなければよかった。
自分の顔が歪んでいくのを止められない。


「全部お前にやるよ」


私はぎゅっと歯を食いしばり、小さく首を振る。
こうなることがわかっていたから見つけたくなかった。
主を見返す自分の目は、まるで睨み返しているようだろう。


「精液中毒の奴隷だよな?」


ためらってから、それでも頷いた。
まだ主を恨みがましく見返したまま。


「全部お前にやる」
「それも綺麗に舐めとれ」




(続く)
 

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