倒錯・1
主が私を跪かせ、いつものようにこの口を使う。
髪を掴まれ頭を動かされる。
喉の奥を突かれ、繰り返しこみ上げる吐き気。
その度に呻き声と共に口蓋を開き、嘔吐しないようにやり過ごす。
えずき苦しむ声を主が楽しんでいるのを感じられれば、それは同時に被虐の快楽になる。
口中で膨れ上がったそれが一際深く咽頭を突き立てるから、きっともうすぐに吐き出されるものを味わおうと、ぎゅっと目を閉じて身構えた。
だけど主はそれを勢い良く引き抜き、ぽかんと開いたままの私の口許や胸に撒き散らすように射精した。
私は深く息を吐く。
さっきまでの強烈な胸苦しさが消えていくのを待ち、呼吸を整えながら、目を閉じたままゆっくりと手を持ち上げる。
指先で頬や顎をなぞり、そこに振りかけられた熱いものを拭っては唇に運び、それを舌先で味わった。
まだ荒い呼吸の主が蔑むように私を見下ろしている。
「おいしいか?」
・・・はい、おいしいです、ありがとうございます
主が喉の奥で笑った。
「精液中毒だな」
私はゆっくりと目を開き、主を見上げてうっとりと笑い返した。
気持ちがいい・・・。
唇を撫でていた指をきれいに舐めて手を床に下ろしたときに、それに気づいた。
一滴、こぼれたもの。
ちょうど両の手の間にぽつんと落ちているそれは、紛れもなく主のもの。
私は思わず小さく声をあげた。
「どうした?」
頭上から主の声。
なんでもないと言えばいい。
そうすれば主は気づかない。
だけど嘘をついてもいいの?
答えをためらったわずかな時間で、私が見ているものを察したのだろう。
主が発している空気がすうっと冷えた。
私はおそるおそる顔を上げる。主の表情を伺う。
そこにあったのは、さっきまでの快楽の放恣とした穏やかさが消えた、サディストの顔。
どうして見つけてしまったんだろう。
見つけなければよかった。
自分の顔が歪んでいくのを止められない。
「全部お前にやるよ」
私はぎゅっと歯を食いしばり、小さく首を振る。
こうなることがわかっていたから見つけたくなかった。
主を見返す自分の目は、まるで睨み返しているようだろう。
「精液中毒の奴隷だよな?」
ためらってから、それでも頷いた。
まだ主を恨みがましく見返したまま。
「全部お前にやる」
「それも綺麗に舐めとれ」
(続く)
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