
主から、この縄をつけて待っているようにと前の夜に命じられた。
体の縄の装着位置は左足首。
どちらかというと大柄な自分の身体に合わせて、ゆっくりと調整を始める。
まず、体幹部分を決めるために、首にかかる縄をぴたりと決めて。
��首輪はどうしても外す気になれなかったので残した。もしも首輪を外していたら、もっときれいに決まっただろう)
胡座をかいて重ねた足首を、きっちりと固定し、首とのつながりの美しく巻き付いた縄とのバランスを調える。
それから、ふくらはぎ。巻き付いた縄が、きれいに足に添うように。
体に埋もれていた太ももの縄も、調整の画面で全体とプリムごとを切り替えながら、丁寧に選択し、引き上げては体に巻き付けていく。
そこまでできたら、足同士を拘束しながら交差する縄をぴんと張る。
巻き付いた縄にかかり、他の足へときれいに伸びるように。
一つずつ、丁寧に。
しっかりと、足を殺し。
また縄をかけては二の腕とつなぎ。
余分な長さがないように、またしっかりと縄の結び目で殺して。
1mmでも膝行る(いざる)こともできないように。
人による太さの違いが少ない手首は、最後にとっておいた。
やはり埋もれていた複雑に交差した縄を全て慎重に選択して、一気に手首をからげるように引き上げた。
私はその美しい造形に目を見張る。
自分の身体が知っているどの縄にも劣らない、強い拘束。
もしも主なら、どんな順序でやるだろう?
私は一つずつ縄を調えながら、主が私を縛り上げる手順を思い浮かべ、それに添って丁寧に作業を進める。
一つ、また一つ、縄が決まっていくごとに、静かに気持ちが集中していく。
手首と上腕をつなぐ縄を固定し、最後に顔を拘束し目と口をふさぐ縄を着けて、完成した。
最初に想像していたような縄酔いは、意外にも少なかった。
この縄はそういう甘さを寄せ付けない。
その代わりに、関節の痛みや呼吸の苦しさを超越させてしまう、圧倒的な拘束の緊張と恍惚がある。
裸の身体を硬い麻縄で包まれるのは、抱きしめられるのと似ている。
拘束したい無力化したいという相手の想いに応え、自由をさしだす喜びや開放感、より鋭敏になる感覚や快楽と共に、当然の痛みや痺れ、怪我の不安、与えられる加虐への恐怖。色々なものが緊縛にはある。
私はそれを簡単に思い起こすことができる。
だけど、この蜘蛛の巣のような縄に包まれて、私の身体はただ、一つのモノになった。
そして、ようやく主が目の前に現れてくれた。
「いいね」
ありがとうございます。
それだけしか言葉が出て来ない。
「よく似合う」
主がSSを撮っているシャッター音が続く。
扇情的な身体に見せるための縛りではなく、苦痛を伴わせながら厳格に拘束するためのこの縄に気圧されたように、主も私も殆ど口をきかなかった。
Real...